ナッジとは?行動経済学を使ったこれからの時代の販売促進

ナッジとは?行動経済学を使ったこれからの時代の販売促進

「マーケティングのヒント」は、さまざまな専門家や記者のみなさまの見解をご紹介するコラムです。

近年、ちょっとした工夫で人々の行動を変容させる「ナッジ」と呼ばれる手法に注目が集まっています。
男性用トイレの便器に小さなハエの絵を描き、狙わせることで、清掃費を大幅に削減できたという事例は有名です。

すでにナッジは、環境保護や省エネに関する政策にも多く導入され、成果を上げています。
しかし、良いことばかりではなく、問題点もあります。
このナッジをマーケティングにも導入し成果を上げるには、どのような点に気をつければいいのでしょうか。

目次[非表示]

  1. 1.消費者の背中をそっと押す「ナッジ」とは
    1. 1.1.行動経済学で注目を集めるようになった「ナッジ」
    2. 1.2.人間は合理的に意思決定しているわけではない
    3. 1.3.ナッジのメリットとデメリット
  2. 2.ナッジをマーケティングに活用した事例
    1. 2.1.高額商品を分割して売るデアゴスティーニの販売手法
    2. 2.2.価格の比較が消費者の意思決定に及ぼす影響
    3. 2.3.2,000円以上の買い物で送料を無料にしているアマゾンの事例
  3. 3.CCCマーケティングからのお知らせ

消費者の背中をそっと押す「ナッジ」とは

もともとナッジは、ひじで軽くつついて合図を送るといった意味です。
相手に直接命令するよりも、ちょっとした仕掛けを使って軽く相手の背中を押した方が動いてもらいやすいというのは、なんとも不思議に感じるかもしれません。
ナッジとは具体的に、どのようなものなのでしょうか。

行動経済学で注目を集めるようになった「ナッジ」

ナッジは、行動経済学の権威であるリチャード・セイラー教授とキャス・サンスティーン教授の論文『リバタリアン・パターナリズム』で提唱され、以来、行動経済学の分野で注目を集めてきました。
両氏は、ナッジを「選択を禁止したり経済的インセンティブに重大な変更を加えることなく、人間の行動を望ましい方向に変更させる選択アーキテクチャである」と定義しています。

この定義を見ても分かるように、ナッジは、禁止や高額な報酬を使って無理やり誘導するものではありません。相手が自発的に望ましい選択肢を選ぶように誘導するものです。

また「望ましい方向に」となっているのは、本来ナッジは人々をより良い方向に導くためのものであるにも関わらず、悪用されて悪い方向へ行ってしまうリスクもあるからです。

人間は合理的に意思決定しているわけではない

行動経済学では、人間の意思決定には、情動的な直感処理を行うシステム1と、理性的で熟慮的な処理を行うシステム2が関与しているとされています。

「人間は論理的思考ではなく、感情で動いている」とは、セイラー教授の言葉です。

直感的な判断を下すシステム1の方は、考えることの負荷が小さく素早い判断を下すことが可能です。
そのため日常生活の多くの場面では、考えることに時間と労力がかかってしまうシステム2よりも、より楽なシステム1を使って感情的、直感的に判断を下すことが多くなります。人間は、考えることを面倒くさがるのです。

ここで問題になってくるのが、その判断の精度です。

システム1には少ない労力で素早く決断を下せる分、思考の偏りであるバイアスや、簡便な方法によって結論を出すヒューリスティックと呼ばれるものが存在します。
このバイアスやヒューリスティックによって考えることを節約する分、判断の精度は下がってしまうのです。
そのため正確な判断が歪められ、不合理な判断を下してしまうというケースが出てきます。

ナッジは、このような脳の仕組みに着目し、本来は不合理な判断につながってしまうバイアスやヒューリスティックを逆手にとって利用することで、望ましい方向へと誘導しようというものです。

ナッジのメリットとデメリット

ナッジには、以下に示すようなメリットが考えられます。

(1)気づかれずにそっと誘導するため、相手からの反発を招きにくい
(2)脳の特性を利用するため、高い効果が見込める
(3)情報の与え方を工夫すればいいという場合もあり、コストもかからないことが多い

一方で、デメリットとしては、以下のようなものが考えられます。

(1)相手に合わせたナッジを設計する必要がある
(2)使用にあたって透明性や管理のやり方に問題が出ることがある
(3)不適切な誘導によって消費者の利益を損ない、制裁を受けるリスクが出てくる

誰に対しても同じやり方でというわけではなく、対象によってメッセージを変えなければ、相手はすぐに興味を失ってしまうということになりかねません。

とりわけ気をつけたいのが、不適切な誘導です。
定期購入がデフォルトに設定されていることや、第三者の購入状況を表示して購入をあおるという行為は「ダークパターン」と呼ばれ、法律による規制の検討が世界各国で進められています。

ナッジの定義も「望ましい方向に」とあるように、適切な使用によって消費者の利益を損なわないようにする必要があります。

ナッジをマーケティングに活用した事例

政策にも応用され成果を上げているナッジですが、マーケティングにおいてはどうでしょうか。
ここでは具体的な事例を踏まえながら、どのようにナッジが活用されているのかを解説していきます。

高額商品を分割して売るデアゴスティーニの販売手法

高額な商品を分割して売る手法としては、デアゴスティーニ・ジャパンを思い浮かべる方も多いでしょう。一度に高額な金額を提示されると消費者側は買うことを躊躇してしまいますが、分割して購入できるようにすることで、心理的なハードルが下がります。

全てそろえるまでに時間がかかるため、途中で消費者に飽きられてしまうというリスクもあります。しかし、人間は中途半端なものに対しては興味が持続するというツァイガルニク効果が働くことで、離脱を抑えることができます。

さらに、せっかく払ったお金を無駄にしたくないという損失回避の心理も働きます。
このように心理的な効果を巧みに組み合わせることで、買いそろえると高額になる商品を最後まで買ってもらうことができるのです。

価格の比較が消費者の意思決定に及ぼす影響

人間は直前に見聞きした数字の印象に影響を受けると言われており、その現象は、アンカリング効果や係留性ヒューリスティックなどと呼ばれています。
例えばテレフォンショッピングで「通常価格2万2000円のところ、本日お値段なんと9800円!」と言われると、通常価格との比較で「そんなに安くなるのか!」と思ってしまいます。
このように通常価格との比較を持ち出すことでお得感を出し、購買意欲の刺激につなげることができます。

それでは、比較の対象を3つに増やすとどうでしょうか?

イトーヨーカ堂での羽毛布団の販売における事例では、最初は商品の価格が2種類だった場合、低い価格の商品がよく売れました。さらに高額の商品を追加して低価格帯、中価格帯、高価格帯の商品をそろえて販売すると、今まで売れなかった中価格帯の商品が良く売れるという結果になりました。
中価格帯の商品は、高価格帯の商品に比べるとお手頃で、低価格帯の商品に比べると上質です。他の商品との比較で、お手頃感と上質さを実感できることに加え、客層を広く取り込むことができたことが売れるようになった要因であると考えられています。
この現象は、極端性回避の法則とも呼ばれ、一番無難な真ん中が選ばれやすくなったとも解釈できます。

2,000円以上の買い物で送料を無料にしているアマゾンの事例

アマゾンでは、プライム会員でなくとも2,000円以上の買い物をすれば、送料が無料になります。
同様のサービスは楽天にもありますが、アマゾンに比べるとハードルが高いものです。

仮に、アマゾンで1,700円の買い物をしたとしましょう。送料を400円とすれば、送料を足し合わせると2,000円を超えます。

送料400円を払うのか、それとも何かを買い足して送料を無料にするのか。

わずかな金額分を買い足すだけでOKという心理的ハードルの低さに加え、送料はできれば払いたくないという損失回避の心理も働き、つい買い足してしまうという人が多く出てきます。

このように、私たちの身の回りでは多くのナッジが活用されています。
ここで紹介したものは、ほんの一例に過ぎません。

どんなものを誰に対して売るのかによって、さまざまなパターンが考えられます。
これらの事例も参考にしながら、ナッジを使った販売促進方法について検討されてみてはいかがでしょうか。

黒田貴晴

黒田貴晴
キャリア系マーケター、心理カウンセラー
脳科学や心理学に強いマーケターとして、主にキャリアに関する分野で活動しているほか、心理カウンセラーとしても、コミュニケーションに問題を抱えた方へのサポートも行っています。就職・転職系のメディアやビジネス心理学のメディアでの執筆実績多数。

CCCマーケティングからのお知らせ

本コラムから、「ナッジ」をマーケティングに取り入れた販売促進方法に関する理解が深まりました。また、誰に対しても同じメッセージの発信ではなく、受け手に合わせたナッジを設計することが重要だということが分かりました。

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