変わる生活様式の中、鉄道に求められるサービスは

 今回は「鉄道」をテーマに取り上げます。新型コロナウイルス感染症の影響で「人の移動」に大きく制限が加えられました。これまでの鉄道利用者も、在宅での勤務や外出を控えたために鉄道を利用する機会が減り、また鉄道各社も終電繰り上げや減便など、以前とは異なる運行を行っています。

CCCマーケティング総研では、鉄道利用者の中でも、通勤でほぼ毎日と言ってよいほど鉄道を利用してきた都市部に通勤する方の鉄道利用の変化を知るため、現在の鉄道の利用状況や鉄道各社の減便などの対応への思いを尋ねるアンケートを行いましたので結果をご紹介します。

アンケートは、2022年2月17日~22日に東京・大阪都心部まで鉄道で60分圏内に居住し、都心部に鉄道で勤務する方を対象とし、1,001人の方から回答を得ました。

本コラムでは、アンケートの結果を東京・大阪の都心部まで30分の方と60分の方で分けて分析し、「東京圏・30分以内/東京圏・60分以内/大阪圏・30分以内/大阪圏・60分以内」と表記しています。
 

鉄道での通勤頻度や定期券購入率の減少は大阪よりも東京で顕著

最初に通勤状況の変化を見ていきましょう(図1)。平日5日勤務する場合の都心部への通勤日数は、新型コロナウイルス感染症拡大前は4.5~4.7日とほぼ毎日の通勤となっています。現在は東京圏30分以内が3.3日、60分以内が3.4日、大阪圏は30分以内が4.2日、60分以内が3.9日と減少しており、在宅勤務やテレワークに移行していることが推測されます。また、大阪圏よりも東京圏の方が在宅勤務やテレワークが進んでいるようです。

通勤定期券の購入率は、東京圏・大阪圏いずれも現在の購入率が新型コロナウイルス感染症拡大前よりも減少しています(図2)。東京圏の方が大阪圏よりも購入率が低いのは、在宅勤務やテレワークが進んでいることの表れとも言えそうです。

鉄道 定期券 移動手段 通勤日数 大阪 東京 都心 ターミナル駅
東京圏60分以内居住者で休日の都心部への鉄道でのお出かけは特に減少
定期券を持っていないと都心部へのお出かけ回数は少ない

次に、休日の鉄道での外出状況について見ていきましょう。アンケートでは休日の外出10回のうち、鉄道で「都心部(ターミナル駅)」「近場の街」に行く回数を尋ねています(図3)。

まずは居住地の都心までの距離別の外出傾向を見てみましょう。図3のグラフの左側は都心部に行く回数ですが、東京圏・大阪圏ともに30分以内居住者の方が60分以内居住者よりも多くなっています。新型コロナウイルス流行前も現在も同じです。

右側は近場の街に行く回数ですが、東京圏、大阪圏それぞれにおいて30分以内居住者と60分以内居住者にあまり差が見られません。こちらも新型コロナウイルス流行前も現在も同じ傾向です。

「都心部へ行く回数」と「近場の街へ行く回数」を比較すると、鉄道での外出は近場の街へ行くよりも都心部へ行く方が全体的に多いのですが東京圏60分以内居住者では新型コロナウイルス流行前と比べると都心部に行く回数が落ち込み、近場の街へ行く回数とあまり変わらなくなっています。

現在の定期券購入別に見てみましょう(図3)。「都心部へ行く回数」は、購入層の方が不定期・非購入層よりも回数がやや多い傾向が見られます。「近場の街へ行く回数」は購入層、不定期・非購入層であまり差が見られません。休日の都心部へのお出かけは、定期券を持っていないことで「時間と交通費をかけて出かけるより近場で済まそう」という心理が働いてしまうのかもしれません。
 

ダイナミックプライシングは反対派も一定数存在

ここまで、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、都心部への通勤頻度の減少、休日の都心部へのお出かけ回数の減少を確認しました。鉄道各社では利用客の減少に対し、ダイヤ改正で減便を行うなどコロナ以前とは異なった運行体制をとるところも出ています。

そのような中で、曜日や時間帯で運賃が変わる「ダイナミックプライシング」(変動料金制)の鉄道への導入が議論されています。例えば、ラッシュ時の運賃を他の時間帯より高く設定することで乗客が分散され、混雑が緩和するなどの効果が期待されます。

このダイナミックプライシングの鉄道への導入について意見を聞いたところ、各層で賛成派が5~6割、反対派が約4割との結果となりました(図4)。大阪圏で東京圏よりも反対派が多く見られます。

「鉄道に関する意識」の結果も見てみましょう(図5)。「人々の生活様式が変化したのだから、鉄道の運行も変わるのはむしろ自然なことだ」では、6割前後が「そう思う・ややそう思う」と回答しています。「そう思わない・あまりそう思わない」は1割前後で、鉄道の運行が変化すること自体は多くの人が理解を示しています。しかし、「新型コロナウイルスの影響が収まった後も、減便などが続いても構わない」では東京圏でそのように考えない方が多く、「運賃が値上げされた場合には、利用を控えることになると思う」と考える方が大阪圏30分以内居住者で多いという結果も出ており、普段の自分の生活への影響が強いと否定的な反応をしているのではないかと推測されます。

ダイナミックプライシング導入については、平日朝の時間帯に行われるのであれば、出勤時間や交通費等、企業側の対応によっても評価は変わってきそうです。また、通勤時の混雑緩和が目的とすれば、在宅勤務を行っている方にとってはあまりメリットを感じることがないのかもしれません。運賃が高くなることで今よりもサービス低下と考えてしまう方もいるでしょう。

今回の調査からは、「生活様式の変化に応じたサービス変更」は生活者から一定の理解は得られそう、ということがわかりましたが、本当のところは自分にどの程度関係があり、自分にとって良いのか悪いのかを見ているようです。これまで生活に不可欠だった鉄道ですが、「利用しない」選択も可能となりました。今後のサービスを考える上で「生活者の新しい生活様式」への理解が重要であることは間違いないでしょう。

 


【調査設計】
調査地域 :埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県/京都府、大阪府、兵庫県、奈良県
調査対象者:都心部まで60分圏内に居住し、都心部に鉄道で勤務する会社員・公務員
集計サンプル数:1,001サンプル(24~59歳男女)
調査期間 :2022年2月17日(木)~2022年2月22日(火)
実査機関 :CCCマーケティング株式会社

本調査の集計表を販売しております。詳しくは、下記をご確認の上、お問い合わせください。
【調査内容】
質問数:全10問
質問項目:
・休日のお出かけ先やその際の交通手段別回数(現在/新型コロナウイルス感染症が広がる前)
・都心部の通勤先への出社頻度(現在/新型コロナウイルス感染症が広がる前)
・都心部の通勤先までの通勤定期券の購入状況(現在/新型コロナウイルス感染症が広がる前)
・勤務先の通勤定期代の支給有無(現在/新型コロナウイルス感染症が広がる前)
・「鉄道」に関する意見や意識
・鉄道における変動料金制検討の認知
・鉄道における変動料金制導入の場合の世の中や自分への影響
・鉄道における変動料金制の将来的な導入への賛成/反対
・属性

【集計内容】
・単純集計
・地域・距離別クロス集計

【注意事項】
・クロス集計において、集計対象数が極端に少なくなる質問は出力していません。

【商品名/番号】
品名:鉄道・交通に関する調査(2021年度)
番号:21-021-002

【価格】集計一式:12,000円(税別)

 


【お問合せ先】
CCCマーケティング総合研究所 
担当:杉浦・斎藤
[email protected]

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